拍節に耳を傾けること

明けましておめでとうございます。 2021年は、仕事や読書の面ではおおむね頑張って、それに伴う結果も得られたと思っています。それ以外がなかなか思うようにいかず、精神的にきつい状況もありました。抱え込むほかどうしようもないものをどうにかできるよう…

読書記録2021

年の瀬、現在9連勤の8日目が終わったところで、明日行けば仕事納めです。例年、年末はこういう感じなのですが、読書記録をアップするのも、休みに入ってからだと力尽きてできなかった2020年だったので、今年は休みに入る前に記事にしました。 1/10 パスカル…

変わらない吸引力で変えていく日常

あまりにも似たような不幸に遭遇するので、そろそろ何かに呪われているのではないかと思って、掃除を徹底することにした。というのも、玄関やトイレ、風呂場などの汚れが運気を下げているせいだ、とでも思わないかぎり、気持ちの持っていきどころが見つから…

ほかならぬ誰かになるために

川上弘美『某』(幻冬舎文庫) 二日間でほぼ一息に読んでしまった久しぶりの川上弘美さんの小説の感想を、読了の勢いのまま綴っておきたくて書いている。 この小説においてまず、人は、あるいは自分は「何者なのか」ではなく「誰なのか」という問いが立てら…

『長城の風』に吹かれて

写真に撮る、何度目の紅葉でしょうか。あなたがかざした一枚を、真っ赤な夕陽が照らしていた日のことを思い出します。遠ざかる日々のことは、振り返らずにいるとあっという間に見えなくなってしまい、ひとり途方に暮れています。すぐそばにあったものも朧気…

「見る」ということ――竹西寛子さんの文章に触れて

竹西寛子さんの文章はつねに、何かを書くという行為を振り返るきっかけになる。それは、仕事に急き立てられて物事をじっくり考える時間の取れない自分を静かに戒めてくれるようで、乾いていた土壌に雨水がしみ込んでいくように、足りなかったものが満たされ…

痛みの道標

夜、不意に訪れるのは、音信不通になってしまったひとや関係が絶たれてしまったひとの記憶で、相手が生きているのか死んでいるのかもわからないことを思って、身体の内側を静かに刺すような痛みを覚える。こちらがどうしようともつながりを保つことのできな…

地上の楽園を夢見て

世が乱れ、信じる心の拠り所が失われゆくなかで、ひとは何をもって誰を信じて生きてゆけばよいのか。異なる主義主張、正義と信念がぶつかり合う物語は面白く、スリリングな展開の果てを拝んだところで、「さて、お前はどう生きる?」と喉元に突き付けられる…

玉座降臨

読書は続けているものの、発信が下手になってしまったような気がしてときどき怯える(何に? とは思うが「怯える」が一番ふさわしい気がする)。「書く」ということ以上に、仕事における表現のほうに力を注いでいる結果なのだとは思うけれど、書き言葉が鈍る…

ジュール・ヴェルヌ『海底二万里』を読む

GWと同じ日数の連休をいただいて、緊急事態宣言と連日の雨天によってどこにも行けないなかで、誰と会うこともなく読書に勤しんだ。 メルヴィルの『白鯨』を5月に通読したように、まとまった時間のあるときにしか読めない長篇を読破したいという思いで、買っ…

雨のちハイデガー

何かを考える時間を避けるように、できるだけ何も考えなくてもいいように、コンテンツに身を任せて休日を過ごしきる。疲れているとき、身も心もそういう時間を求めているからこそ、そんなふうに過ごすことについて、その最中には何も思わない。何も考えなく…

メルヴィル『白鯨』を読む

どこにも行けない以上、本の世界に行くほかない。そんな思いで、普段なら読めない長編を物色する中、作品があまりにも多様なモチーフに用いられながら、あまりにも通読へのハードルが高そうな巨編を見つけ、手に取った。 ハーマン・メルヴィル 八木敏雄訳『…

浮かばれない言葉の連なり

多忙な仕事の反動は、無気力な身体と疲弊した精神を自室に封じ込める。 信用したい人間からの連絡は途絶え、季節はめぐり、実感のない春が訪れた。 写真を撮りに行きたい気持ちは空回りして、誘おうと思った人間にはどうせ断られるのだろうしこの先の体調も…

夜の間でさえ 季節は変わって行く

小説を書いた頃の自分を思い返している。作家になること、小説を書いて生きていくことを志している自分の姿が、気づけば遠い。「もう書かない」あるいは「もう書けない」と断言するつもりはないけれど、表現したいものを表現するのに、必ずしも小説という形…

本の話あれこれ

現時点での自分の興味・関心がどういう方向に向いているのかを自覚するのにジュンク堂に行くと、読みたい本が幾何級数的に増えていく。 現在は、上林暁の短篇集『聖ヨハネ病院にて|大懺悔』(講談社文芸文庫)を読んでいる。センター試験'19の小説「花の精…

夢と現のほとりから

嘘みたいなことが本当になり、確かだと思えた現実が夢のように遠ざかった2020年。 そんなことを思いながら、福永武彦の随想「夢のように」を読み返す。 「夢のように」という表現は、夢そのものでなく、受け入れがたい現実に対して使われる比喩表現である。…

不必要な誠意

今年に入ってから、「また声かけますね」「また行きましょう」「また連絡しますね」と言われて向こうから連絡がきたためしがないので、日本語の「また」には「二度と~ない」という用法ができたのではないかと思い始めた。 今年だけでたびたびそれを味わって…

読書遍歴④ 2008年 ~神様降臨~

中学時代からの読書遍歴を書こうとして、19歳の2007年まで書いて、そろそろ続き書かないとなと思っていたらなんと1年以上経っていた。あれがもう去年(正確には1年と2ヶ月前)なんてそんなはずはないのだけれど、記事がそうなっているのだから実際にそうで、…

物語の刻印をなぞって

ひとに本を薦めたのに、その本の読後感以外はほとんどが消え去ってしまっているというのは悲しいと思って、薦めたそばから慌てて再読を始めた。過去に綴った感想は、調べてみると10年前のものだった。 小川洋子『密やかな結晶』(講談社文庫) 10年ぶりに読…

思いつきの京都観光記録

就職して10年目なのは心の片隅にあるのに、「大学4年だった2010年って10年前なのか……」とその時間の長さを思って何とも言えない気持ちになった。正確なところでいえば、内定の通知からはほぼ10年が経つ。過去を振り返って内省的になっていろいろと考え込む文…

目に見えない糸を思って

真面目さ、誠実さを美徳と信じて生きているものの、そのせいで傷ついたり、悲しみをうまく受け流すことができないでいたりする。 気にする必要のないこと、気にかけても仕方のないことに悩んだり、腹を立てたりしてしまうのは、自分の価値観を他人に押しつけ…

表現が、誰かにとっての何かであるために

前回記事はレンズの話に終始してしまったけれど、本当に書きたかったのは実はここからの話。 見たひとが、引き込まれるような写真を撮りたいと思う。 それは、現実を巧みに写し出したいという欲求であるとともに、自分の内面にあるものを現実の風景に仮託し…

底なしレンズ沼からのいざない

レンズ沼、という言葉がある。デジタル一眼を買うことの宿命として、より質の高い写真、自分の撮りたい写真を目指して様々なレンズを買いたくなるというのがそれである。 (▼長めの近況。読み流してOKです) フルサイズミラーレスを使うようになって、しばら…

思い描いた景色のために

遠出を自粛することに決めたものの、工場夜景は撮りたくて、夏の連休では1年3ヶ月ぶりに四日市へ日帰りで行った。電車に約2時間ほど揺られ、駅から歩いて30分で撮影場所にたどり着く。道のりはわかっていたので、昼過ぎに家を出て、夕方に到着し、日没後の景…

撮ることは考えること2020

「書くことは生きること」を座右の銘にして久しいけれど、カメラで写真を撮るようになって、そこに「撮ることは考えること」を付け足したのは4年前。自分が感じている、写真を撮ることの魅力とは何なのだろう、と考えながら、それがようやくまとまった言葉に…

鉄道文学の車窓から

電車を扱った小説は数多くて、その名作の多さには驚かされる。自分の読んだもので言えば、タイトルに「鉄道」が入る宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』のほかに、有名すぎる冒頭に加えて車窓からの描写が美しい川端康成の『雪国』、焦燥に駆られながら列車内で回想…

密室読書雑記

ひたすらに読書している。どこにも行けない8連休を、引きこもってゲームし倒す心づもりだったのが、やっぱり本を読もうと2日目に思い直し、4/30~5/5までで、8冊読了した。感想はそのつどTwitterに挙げているが、総じて思うことを、ここにしたためておきたい…

目に見えぬ冬の終わり

傘を伝う雨粒が、アスファルトに落ちて、側溝へと流れていく。天と地の無数の結び目をたどって街を歩きながら、今日はマフラーのいらない日だと思った。駅前の人通りはいつもと変わらない。同じ日は来ないけれど、普段通りの日々はそこにあって、変化という…

一つの街で

曇天の中で、昨日近くの公園に写真を撮りに行った。土曜日の午後、イベントの告知のポスターには、中止の貼り紙が上からいくつも貼ってあったけれど、敷地内は家族連れが多くて賑わっていた。 家を出るときは晴れ間も見えたので、途中で太陽が差し込むことも…

沈む

自分にできないことができるひとをひたすらに尊敬しながら、そんな必要もないのに比べてしまって落ち込むことがたびたびある。心の内にある動きを見つめてみたら、それは「大したことがない」と思われたくない、「つまらない」と思われて離れられたくないと…