底なしレンズ沼からのいざない

 レンズ沼、という言葉がある。デジタル一眼を買うことの宿命として、より質の高い写真、自分の撮りたい写真を目指して様々なレンズを買いたくなるというのがそれである。
 
(▼長めの近況。読み流してOKです)
 フルサイズミラーレスを使うようになって、しばらくというか約2年、50mmの単焦点で撮っていた。というのも、この50mmのレンズ(Loxia2/50)がものすごくよくて、何を撮るにしてもこれで撮っていたいと思えるレンズだったからである。それが今年になって神戸を撮りに行ったとき、街並みを写すのにどうしても広角の必要性に駆られ、50mmという焦点距離の限界を感じた。それ以外にも、このLoxiaが、どうも曇天に強くないような気がしていたこともあり(大抵のレンズは曇りでの撮影が難しいとはいえ)、35mmが欲しくなった。そんな折、気になっていたコシナフォクトレンダー)が、Nokton35mmF1.2SEというレンズを発売したことを知り、7月に意を決して購入した。Nokton(夜)の名がつく通り、曇りを含めた夜のスナップにものすごく強く、数段絞ればシャープに解像するので大変気に入っており、現在はそこにPLフィルターも付けて撮影している。
 
(▼ここから本題)
 で、最近、さらなる欲求が押し寄せている。
 
 望遠ズームレンズが欲しいのである。
 
 SONYのカメラを使用されている方ならご存じの通り、純正のレンズは異常に高い。GMレンズはもちろんのこと、Gレンズだって高い。いくら素晴らしいレンズでも、これまですでにたくさんレンズにお金を使っていても、カメラのボディを上回る価格のレンズには、さすがに手は出したくないと思ってしまう。
 
 高飛車なSONYさんがそれでも高額なラインナップを保ち続ける中、TAMRONが70-180mm/F2.8の望遠レンズを5月頃に発売していたことを知った。これを買えば、持っていない焦点距離をきれいにカバーでき、しかもSONYのレンズほど高くない良心的な価格設定で、明るく映りも良いらしい(Youtubeでも評判のいいレビューを多数見かけた)。これはいずれ買わなければならないのでは、と思った。
 ここで終われば「じゃあ買えばいいのでは」で済むのだけれど、話はそう簡単ではない。
 
 近年、コンパクトデジカメ(レンズ交換できないデジカメ、通称コンデジ)の進化も目覚ましく、ミラーレス一眼で市場を席巻するSONYは、なんとコンデジにおいてもハイスペックなものを出し続けているのである。
 最新型のRX100m7は、ポケットに入るレベルの小型で、かつ200mmまで望遠ズームができ、搭載するレンズのスペックも高い。
 
 で、そのコンデジと、先述の望遠ズームレンズの価格がそれほど変わらないときている。
 
 さすがにフルサイズのミラーレス一眼には劣るだろうけれど、望遠ズームレンズを買って持ち運び、現地でレンズ交換する手間がなくなるのはものすごく魅力的である。一眼での撮影を楽しむようになって、コンデジもすごいけれど欲しくなることはないだろうと思っていたら、こういうことが起こるのかと戦慄した。
 フルサイズの一眼に単焦点レンズを付けて撮影し、望遠が欲しいなと思ったら、ポケットからコンデジを取り出してその場で写真に収める。思い描いたその行為のなんとスマートなことか。
 
 しかし当然、TAMRONのレンズの写りには感動すると思う。70mmから180mmまでの焦点距離をじっくり考えながら撮り歩くことで、どこから撮るのか、どこでズームを使うのかと考えているうち、撮影技術が上がりそうな気もする。夜景にも強いはずである。
 
 「写りに限界はあるがフルサイズと併用できるコンデジ」か、「写りもよく夜景も撮れそうだが重たく煩瑣なズームレンズ」か。悩ましい。どちらかは買うだろうが、いったいどうしたらいいのか。
 
 何が恐ろしいって、どちらを買ってもいずれもう一方が欲しくなりそうということである。レンズを買えば、「やっぱり重たいし持っていくの面倒だな」となり、コンデジを買えば、「やっぱり写りに限界があるな」と感じるのだろう。
 
 すべては素敵な写真のために、と言えば聞こえはいいが、その散財には果てがない。そして、「恐ろしい」と言いながらも、写真の質が高まり、撮れるものの幅が広がっていくことを楽しんでもいる。楽しみながら沼に沈んでいる。楽しんで沈めるならば、一人で沈むのはもったいない。
 
 まだどちらを買うかの結論は出ていないけれど、気が付けばこうして沼にはまり、そしていつの間にか自分自身も沼の一部として、誰かがそこに沈むのを待ち構えるようになるのであった。
 
 
 カメラをやっていない人にとっては理解に苦しむ話かもしれないですが、最後まで読んでいただきありがとうございました。