本の話あれこれ

 現時点での自分の興味・関心がどういう方向に向いているのかを自覚するのにジュンク堂に行くと、読みたい本が幾何級数的に増えていく。

 

 現在は、上林暁の短篇集『聖ヨハネ病院にて|大懺悔』(講談社文芸文庫)を読んでいる。センター試験'19の小説「花の精」で思ったが、短い文章のなかに無駄なく情報を落とし込む筆力が凄まじく、この1ページでここまで物語を展開できるのかと唸っている。収録されている1作目の「薔薇盗人」の冒頭が見事だった。現在は2作目の「野」を読了したところ。心情の揺らぎとのどかな野の風景の対比に加え、穏やかではない家族内の関係も孕みつつ、それぞれが絶妙に絡み合って物語を形成している。

 

 と、それを読み進めつつ読んでいるのが、山崎正和氏の『社交する人間』(中公文庫)。現在中盤あたり。
 人間が人間とのつながりを求めつつ、欲望の奴隷になるのを回避しながら場を円滑にするために作法があるという切り口など、習慣が文化になっていく過程が洗練された文章で明快に語られていて面白い。山崎正和氏で言えば『リズムの哲学ノート』(中央公論新社))を読みたいのだけれど、これも中公文庫にそろそろ入るのだろうか。

 

 1/10に、昨年から読み進めていたパスカルキニャールの『秘められた生』(水声社)を読了したので、こんなふうに停滞して読書が動き始めた。
 キニャールの『秘められた生』は、生と死、そして愛について、水底に落ちたガラス片が、差し込む日差しにきらめくように、一つひとつの断章が放つ光を追いかけて、深い場所までゆっくり沈んでいく読書経験だった。ここで集めた欠片は、これから先の人生において、折に触れて輝くような気がしている。決して易しい文章ではないけれど、深遠な名著だと思う。

 

 読み進めている本に反して、読みたい本は小野不由美さんの『ゴーストハント』なのだけれど、こちらは刊行が揃ってからまとめ買いするつもりでいる。綾辻行人さんや有栖川有栖さんの本は、主著を大体読み終えてしまったため、長編ミステリ不足に陥りそうだ。一応、綾辻さんの『フリークス』(角川文庫)がまだ控えているので、こちらも気が向いたときに読みたい。
 エンターテインメント的な読書で言えば、恒川光太郎さんの『スタープレイヤー』も置いてある。『ヘブンメイカー』へと続けて読みたいのだが、いつになるかわからない。

 

 こんなふうに、読みたい本の話をして、聞いてくれる人が身近にいないのが何ともさみしい。何を発信しても、会話や交流のきっかけを作りえない自分に、ときどき失望しそうになる。閉塞感に満ちた日々が続くからこそ、内側に奥行を広げるように、読書を続けていきたいと思う。