2021-01-01から1年間の記事一覧

読書記録2021

年の瀬、現在9連勤の8日目が終わったところで、明日行けば仕事納めです。例年、年末はこういう感じなのですが、読書記録をアップするのも、休みに入ってからだと力尽きてできなかった2020年だったので、今年は休みに入る前に記事にしました。 1/10 パスカル…

変わらない吸引力で変えていく日常

あまりにも似たような不幸に遭遇するので、そろそろ何かに呪われているのではないかと思って、掃除を徹底することにした。というのも、玄関やトイレ、風呂場などの汚れが運気を下げているせいだ、とでも思わないかぎり、気持ちの持っていきどころが見つから…

ほかならぬ誰かになるために

川上弘美『某』(幻冬舎文庫) 二日間でほぼ一息に読んでしまった久しぶりの川上弘美さんの小説の感想を、読了の勢いのまま綴っておきたくて書いている。 この小説においてまず、人は、あるいは自分は「何者なのか」ではなく「誰なのか」という問いが立てら…

『長城の風』に吹かれて

写真に撮る、何度目の紅葉でしょうか。あなたがかざした一枚を、真っ赤な夕陽が照らしていた日のことを思い出します。遠ざかる日々のことは、振り返らずにいるとあっという間に見えなくなってしまい、ひとり途方に暮れています。すぐそばにあったものも朧気…

「見る」ということ――竹西寛子さんの文章に触れて

竹西寛子さんの文章はつねに、何かを書くという行為を振り返るきっかけになる。それは、仕事に急き立てられて物事をじっくり考える時間の取れない自分を静かに戒めてくれるようで、乾いていた土壌に雨水がしみ込んでいくように、足りなかったものが満たされ…

痛みの道標

夜、不意に訪れるのは、音信不通になってしまったひとや関係が絶たれてしまったひとの記憶で、相手が生きているのか死んでいるのかもわからないことを思って、身体の内側を静かに刺すような痛みを覚える。こちらがどうしようともつながりを保つことのできな…

地上の楽園を夢見て

世が乱れ、信じる心の拠り所が失われゆくなかで、ひとは何をもって誰を信じて生きてゆけばよいのか。異なる主義主張、正義と信念がぶつかり合う物語は面白く、スリリングな展開の果てを拝んだところで、「さて、お前はどう生きる?」と喉元に突き付けられる…

玉座降臨

読書は続けているものの、発信が下手になってしまったような気がしてときどき怯える(何に? とは思うが「怯える」が一番ふさわしい気がする)。「書く」ということ以上に、仕事における表現のほうに力を注いでいる結果なのだとは思うけれど、書き言葉が鈍る…

ジュール・ヴェルヌ『海底二万里』を読む

GWと同じ日数の連休をいただいて、緊急事態宣言と連日の雨天によってどこにも行けないなかで、誰と会うこともなく読書に勤しんだ。 メルヴィルの『白鯨』を5月に通読したように、まとまった時間のあるときにしか読めない長篇を読破したいという思いで、買っ…

雨のちハイデガー

何かを考える時間を避けるように、できるだけ何も考えなくてもいいように、コンテンツに身を任せて休日を過ごしきる。疲れているとき、身も心もそういう時間を求めているからこそ、そんなふうに過ごすことについて、その最中には何も思わない。何も考えなく…

メルヴィル『白鯨』を読む

どこにも行けない以上、本の世界に行くほかない。そんな思いで、普段なら読めない長編を物色する中、作品があまりにも多様なモチーフに用いられながら、あまりにも通読へのハードルが高そうな巨編を見つけ、手に取った。 ハーマン・メルヴィル 八木敏雄訳『…

浮かばれない言葉の連なり

多忙な仕事の反動は、無気力な身体と疲弊した精神を自室に封じ込める。 信用したい人間からの連絡は途絶え、季節はめぐり、実感のない春が訪れた。 写真を撮りに行きたい気持ちは空回りして、誘おうと思った人間にはどうせ断られるのだろうしこの先の体調も…

夜の間でさえ 季節は変わって行く

小説を書いた頃の自分を思い返している。作家になること、小説を書いて生きていくことを志している自分の姿が、気づけば遠い。「もう書かない」あるいは「もう書けない」と断言するつもりはないけれど、表現したいものを表現するのに、必ずしも小説という形…

本の話あれこれ

現時点での自分の興味・関心がどういう方向に向いているのかを自覚するのにジュンク堂に行くと、読みたい本が幾何級数的に増えていく。 現在は、上林暁の短篇集『聖ヨハネ病院にて|大懺悔』(講談社文芸文庫)を読んでいる。センター試験'19の小説「花の精…

夢と現のほとりから

嘘みたいなことが本当になり、確かだと思えた現実が夢のように遠ざかった2020年。 そんなことを思いながら、福永武彦の随想「夢のように」を読み返す。 「夢のように」という表現は、夢そのものでなく、受け入れがたい現実に対して使われる比喩表現である。…