2019-01-01から1年間の記事一覧

知的教養と論理の迷宮 有栖川有栖作品について

一般にミステリと呼ばれる作品を読み始めたのは、読書遍歴の記事にも書いたように、高校時代の宮部みゆき、本多孝好、伊坂幸太郎(伊坂さんについてはミステリというより「伊坂幸太郎」というジャンルだともいえる)がそのきっかけになる。ただ、いわゆる本…

書くことの永遠に憧れて

文章を書くこと、あるいは物語を書くという行為には、自分自身の思いを自由に書き連ねるという表現の悦楽と、無から有を生み出す苦悶の往復が付きまとう。これは、書き手が小説を書くという行為を突き詰め、読み返し、書く行為そのものの痕跡を深々と刻もう…

もう一度、書くことは生きること

書くことは生きること。何かを書こうとして、考えても考えても出てこなかったり、まとまらなかったりするとき、しるべのように心の奥に立つ、その言葉の前に戻る。心の中にある思いを練り上げ、文章にすることを長らく怠ってきたことを恥じ、佇むことしかで…

読書遍歴③ 2007年

これを読んでくださっている方々がどのような感想を持っておられるのかわからないけれど、取り上げた本を読んだ覚えがあったり、似たような思い入れがあったりしたときに、教えてもらえたらとても嬉しいです。 ここからは大学以降の話で、片道2時間の通学時…

読書遍歴② 2004年~2006年

■16歳~18歳 高校に入ると、ライトノベルは読まなくなっていた。ファンタジーを書くことに必要な知識量や発想力、キャラクターを生み出す創造力に、矛盾のない世界観を組み立てる難しさを、いざ自分が書こうとして思い知ったのだと思う。何よりも書くために…

読書遍歴① 2002年~2003年

文章を書いて生きていきたいと初めて思ってから15年ほど経つ。書くことそのものが仕事にはなっていないものの、「書くために読もう」と思ってからのほうが、それまでの人生より長くなりつつある。読み続けること、書き続けることを辞めたら、自分が自分でな…

引き伸ばし、歪んだ現実の向こうに見えるもの

柴崎友香 『パノララ』(講談社文庫) ※感想を書くにあたり、本文の核心に触れている部分があります。あらかじめご了承ください。 緩やかなようで独特な、そして鮮烈な読後感を残す小説だった。 主人公の「わたし」(田中真紀子)は東京で会社勤め(契約社員…

デジタルで撮る人間の戯言

▼小説の没原稿 立ち止まってカメラを構え、右目でファインダーを覗く。太陽の光は斜め後ろから差し込み、レンズの向いている先の紅葉に降り注いでいる。ピントリングを回す。ぼやけていた視界に、赤い葉の輪郭が浮かび上がってくる。もう少し、と思いながら…