物が語るうつくしさ

 買わない理由が見つからない。そう思った本がある。


 小川洋子 クラフト・エヴィング商會 『注文の多い注文書』(筑摩書房


 大好きな作家である小川洋子さんが、吉田篤弘さんの『針がとぶ』(中公文庫)の帯と解説を書かれていたことでさえうれしかったのだから、こうして大々的に共同製作した作品にめぐり合えるというのは、本当に幸せなことである。


 物語は、小川洋子さんの書く登場人物が、この世にないものであっても探し出し、取り寄せるクラフト・エヴィング商會を訪れ、どこにあるのやら見当もつかない商品を注文する「注文書」と、クラフト・エヴィングの吉田夫妻がつくり出す、依頼された商品の「納品書」、そして、再び小川さんの書く、納品されたものを受け取った人物の「受領書」という形で構成されている。


 全5章。製作には9年がかかったと末尾の鼎談で書かれている。それらの物語で、依頼人は必ず、ある本にまつわるものを注文する。川端康成の『たんぽぽ』や、内田百輭の『冥途』など、この作品を通して、別の本への読み手を結びつける工夫が素敵である。


 注文書で語られる依頼人の口調は、小川洋子さんの書く文章らしく、静かで、幻想的で、細やかな表現で、何とかして探し出してほしいという切実さを伝える。どこを探して、どうやって見つけ出すのやら、さっぱりわからないけれど、それらの注文書には必ず納品書が添えられていることを、読者は目次で知っているため、クラフト・エヴィング商會が、いったいどうやってそれを見つけたのだろうと、気になってページをめくるのをやめられない。
 納品書には、注文されたものの写真が載せられ、本の中に出てきたものでさえ、形となって提示される。文章だけではない、意外性や感動がそこにあって、平面上にあった物語が、立体的な形をとって現れる瞬間に、うっとりする。


 小川さんらしさも、吉田さんらしさもそこにあって、両者を愛読しているひとには本当にたまらない一冊である。いずれかしか読んでいなくても、入り口には非常にふさわしいようにも思う。ページをめくる悦びと、物語を味わう心地よさから、いつも彼らの作品を読むときと同じように、ずっと浸っていたい思いが膨らんでいった。素敵過ぎる作品だった。


 読み終えて、内田百輭の『冥途』が気になって、ジュンク堂ちくま文庫の棚に行くと、『内田百輭集成』の第3巻にそれはあって、なんと解説が多和田葉子さんだった。作家と作家をつなぎ、読書の輪を広げていくうえで、こんなに素晴らしい本はそう簡単に見つからない。
 気になった方には絶対に読んでほしい一冊である。


 世田谷文学館で行われるクラフト・エヴィング商會の展覧会『星を賣る店』に、何とかしていけないものか、と真剣に考えている。