読書遍歴③ 2007年

 これを読んでくださっている方々がどのような感想を持っておられるのかわからないけれど、取り上げた本を読んだ覚えがあったり、似たような思い入れがあったりしたときに、教えてもらえたらとても嬉しいです。

 

 ここからは大学以降の話で、片道2時間の通学時間を存分に使いながら読書に明け暮れた日々の記録となる。したがって、一度の記事に書けるのは1年分ではないかと思う。

 

■19歳 ~村上春樹再び、そして青山七恵池澤夏樹

 中学時代に読んだ『海辺のカフカ』、それを受けて読んでみて難しく感じた『風の歌を聴け』、『アフターダーク』、そして、当時はその良さをわからないまま終わってしまった『キャッチャー・イン・ザ・ライ』を経て、ここから再び村上春樹の長編に挑むことになる。

 電車でまず1時間、そしてバスで約40分の道のりを退屈せずに過ごすため、没入できる村上春樹の作品はうってつけだった。『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』、『ねじまき鳥クロニクル』、『ノルウェイの森』、『羊をめぐる冒険』を読んだのはこの時期だったと思う。特に『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』の世界観が好きだった。現実の世界とは別個に立ち上げられる世界に触れ、その秩序や文法に心を委ねる読書経験のなんと幸福だったことだろう(講義の合間にも読み進めた『1Q84』も思い出深い)。

 

 青山七恵さんは、高校時代に引き続き、芥川賞を受賞された作家を読む一環として手に取った。『ひとり日和』や『窓の灯』を初めとして、描かれる人間関係の絶妙さに唸る。過去に書いたこともあるけれど、「気まずさ」を描くのが本当に巧い。『ひとり日和』における知寿と吟子さんだったり、『かけら』の中での「わたし」と父だったり。年齢差だけではない噛み合わなさや、沈黙の続く空気の読み合いなど、人間関係における繊細な部分が丁寧に書かれている印象がある。最近の作品は追えていないが、この時期に読んでおいてよかったと思える作家の一人である。『魔法使いクラブ』もかなり面白かった。

 

 そして、春樹の次だからなどというわけではなく、これも芥川賞作家だからという理由で、池澤夏樹さんの『スティル・ライフ』を手に取った。当時、『小説の一行目』という芥川賞直木賞の書き出しだけが一挙に掲載された本を持っていて、気になる書き出しを見つけては立ち読みをしていた覚えがある。それで言うと、絲山秋子さんの『沖で待つ』や『海の仙人』を読んだのもこの時期である。そんないくつもの書き出しの中にあって、『スティル・ライフ』の「この世界がきみのために存在すると思ってはいけない。」は強く印象に残ったのだった。文章の美しさ、発想の豊かさと描かれる作品の雰囲気に、長く浸っていたいと思った。

 そのころはまだ、池澤さんの父である福永武彦については全然知らず、しかも、『スティル・ライフ』の解説が、後に人生を揺さぶることになる須賀敦子であることを、気に留めることもなかった。とにかく池澤夏樹さんの作品を読みふけっていた。

 

 読書時間の増加が最たる理由ではあるけれど、この時期に出会った友人に薦められた本によって、読むことや書くことについて本当に大きな影響を受けた。番外編的に言えば、『葉桜の日』から鷺沢萠を読んだり、『ぼくは勉強ができない』から山田詠美を読んだりしたのもこの時期。この辺りから女性作家が増え始める気がする。

 

というわけで、本日はここまで。次回は『神様』が降臨します。