読書記録2012

 読み終えた本が、自分自身をつくる。書き連ねられた文字を目で追い、紡がれた言葉を心に沁み込ませ、編み上げられた文章から浮かび上がる自分だけの特別な意味を噛みしめる。2012年は、そんな読書の悦びを、深く深く味わうことのできた一年だった。
 本を通じて、人とつながる機会が人生で最も多かった一年になったと思っている。読んだ活字は心に窓をつくり、そこから新しい風が吹き込む。同じ文章に覚えた感動の共鳴が、同じものを読んだからこそわかるその思いが、いくつもの窓を開け、カーテンを揺らした。
 改めて今、その軌跡を振り返りたい。
 以下、Ever Noteにしたためた記録である。


1/13 藤枝静男『田紳有楽/空気頭』
2/23 堀江敏幸『なずな』
2/28 恩田陸『夢違』
3/1 穂村弘『にょにょっ記』
3/9 伊坂幸太郎『PK』
3/11 穂村弘東直子回転ドアは、順番に』
3/19 佐多稲子『私の東京地図』
3/26 穂村弘ほか『どうして書くの?』
4/1 伊坂幸太郎『仙台ぐらし』
4/1 長嶋有『電化文学列伝』
4/12 堀江敏幸『時計まわりで迂回すること 回送電車Ⅴ』
4/12 アントニオ・タブッキ『供述によるとペレイラは……』
4/13 アゴタ・クリストフ悪童日記
4/19 アゴタ・クリストフ『ふたりの証拠』
4/19 アゴタ・クリストフ『第三の嘘』
4/19 東直子『十階』
4/21 角田光代穂村弘『異性』
4/24 アゴタ・クリストフ『文盲』
5/3 アゴタ・クリストフ『どちらでもいい』
5/6 佐多稲子『月の宴』
6/7 多和田葉子『雲をつかむ話』
6/21 堀江敏幸『燃焼のための習作』
6/22 伊坂幸太郎夜の国のクーパー
7/5 ナタリア・ギンズブルグ『ある家族の会話』
7/6 佐々木中『切りとれ、あの祈る手を』
7/12 柴崎友香『わたしがいなかった街で』
7/15 島本理生『大きな熊が来る前に、おやすみ。』
7/29 長嶋有『ぼくは落ち着きがない』
8/5 川上弘美『七夜物語 上』
8/6 川上弘美『七夜物語 下』
8/14 内田樹『街場の文体論』
8/15 小川洋子『最果てアーケード』
8/15 小川洋子『ミーナの行進』
8/16 佐多稲子『私の長崎地図』
8/18 マルグリット・ユルスナールハドリアヌス帝の回想』
8/19 江國香織『神様のボート』
8/19 マルグリット・ユルスナール『東方綺譚』
8/20 内田樹『街場の教育論』
8/26 中島敦『斗南先生/南島譚』
9/4 須賀敦子須賀敦子全集 第3巻』
10/3 サン=テグジュペリ星の王子さま
10/7 サン=テグジュペリ『人間の土地』
10/14 奥泉光シューマンの指』
10/17 谷崎潤一郎春琴抄
10/31 ウィリアム・トレヴァー『聖母の贈り物』
11/8 須賀敦子須賀敦子全集 第4巻』
11/8 長嶋有佐渡の三人』
11/16 多和田葉子『飛魂』
11/23 宮部みゆき『ソロモンの偽証 第Ⅰ部 事件』
11/28 宮部みゆき『ソロモンの偽証 第Ⅱ部 決意』
11/30 宮部みゆき『ソロモンの偽証 第Ⅲ部 法廷』
12/14 ジョルジュ・ペレック『さまざまな空間』
12/19 柴崎友香『週末カミング』
12/20 伊坂幸太郎『残り全部バケーション』
12/20 多和田葉子『文字移植』


 合計55冊。藤枝静男に始まり、多和田葉子に終わる一年になろうとしている。これまで踏み出そうにも踏み出せなかった海外文学への一歩を、着実に踏み出せた一年だと言える。読み継いで、どこまで行けるのだろう。好きな作家をどれだけ増やせるのだろう。新たな一年の始まりを迎えるにあたって、未だ見ぬ言葉への期待に胸を膨らませている。


 昨年はできなかった今年の10冊を、選んでみようと思う。10冊でおさまらないほど、質の高いものばかり読めたことがうれしい。


藤枝静男『田紳有楽』
堀江敏幸『なずな』
川上弘美『七夜物語』
谷崎潤一郎春琴抄
多和田葉子『飛魂』
アゴタ・クリストフ悪童日記
⑦ナタリア・ギンズブルグ『ある家族の会話』
マルグリット・ユルスナールハドリアヌス帝の回想』
サン=テグジュペリ『人間の土地』
ジョルジュ・ペレック『さまざまな空間』


 無理やりに選ぶと上記のようになる。伊坂幸太郎柴崎友香長嶋有中島敦佐多稲子も入れたい。けれどおさまらない。エクセルに貼りつけて並べてみたら、主要な作家は2冊以上読めていて、すごくうれしかった。きちんと愛読しているものを読み続けながら、新しい地平を開拓できたことが、確かな手ごたえとして残っている。


 この余韻を抱えたまま、今年より多くの本を手に取り、言葉を紡いでいける一年にしたいと、強く思うしだいである。読むこと、そして書くことが、生きていくことにほかならないと確信しながら、かぎりある日々を駆け抜けていきたい。