人間の起源を探る旅へ

 長旅が終わった。2週間かかった。小説のなかの、キルギスへの旅である。


 津島佑子[著] 『黄金の夢の歌』(講談社


 いろんなことがあった合間に読み進めていたので、レビューを書けるだけ読み込めていないということをご了承いただきたい。ということで、考えるままに感想を書けたらと思う。


 420ページほど、なかなかに読み応えのあるこの小説は、膨大な資料をひも解きつつ、著者が実際に中央アジアを旅して書ききった力作である。アイヌの口承文学を研究していた著者が、キルギスの英雄マナスの叙事詩、「夢の歌」を求め旅した旅行記というかたちで小説は書かれている。
 それは神話の起源を辿るような旅であり、アジアという言葉の起源を辿るような旅でもある。読んでいて、当たり前と言えば当たり前だが、懐かしの世界史頻出ワードに次から次へとめぐりあう。
 匈奴、スキタイ、冒頓単于、キプチャク・ハーン、タラス河畔の戦い――
 けれど、必死に覚えようとしていたその言葉は、旅先で出会った途端に生きた意味を持って想起される。現在を生きるわれわれの、遠い遠いルーツに触れるかのように、時代も土地も超えて、「夢の歌」の聴こえるところへ、「わたし」は、そして「あなた」は近づいていく。
 東洋のルーツを探ろうと始まった旅は、シルクロードを辿って西洋と交錯する。アジアとヨーロッパがせめぎ合いながらその歴史を織り上げてきた中央アジアキルギスという地。単なる旅行記としても読めてしまうけれど、読んでいて自分もまた旅先にいるような感覚があり、その筆力には『ナラ・レポート』のときと同様感服した。


 旅の終わりに、「わたし」の過去から現在にかけて流れた時間が、大きな歴史の文脈の中に組み込まれて捉え直されるとき、連綿と続いてきた「夢の時間」を、読み手は体感するだろうと思う。そして、一緒に旅をしてまわった人々との別れを名残惜しむように、本を閉じる。
 凝ったストーリー構成のようなエンターテインメント性はそれほどないとは思うのだけれど、史実に基づいた、現在につながるその長い物語がどれほどドラマティックなものか、充分に実感できる一冊だと思う。


 ちなみに、出荷数が少ないのか、アマゾンではすでに出品者からしか購入不可ということらしい。本を読む醍醐味はむしろこういう小説にあるような気がするのだけれど、なかなか難しいなと思ってしまう。


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 東京・レポート(新幹線編、六本木編)は現在小説として鋭意執筆中です。長くなりそうなので日記に載せるかどうかは未定。そして完成するかどうかも未定という(汗) ……頑張ります。