新しい時間の始まり

 思い返せば実にいろいろなことがあった11月だった。
 大きな出来事としては二つ。一つは原稿用紙換算100枚の小説を書き上げたこと、もう一つはミラーレス一眼を購入したことである。


 小説は、ぼんやりと書きたいイメージだけがあったのは去年の今ごろで、完成までほぼ1年をかけたことになる。休日のたびにネットカフェに出かけ、なんとか仕上げた。
 その過程で、描写が必要な景色を過去の旅先に求め、撮った写真を眺める時間が多く、さらにそれだけでは足りず、画像検索でも物足りなさを覚え、風景の写真集を買って見入っていた。けれどそれでも、自分の切り取りたい景色はそこになくて、次第に自分自身で撮りたいと思うようになってきた。


 ちょうど仕事でも写真を撮る機会があって、職場にあるコンパクトデジタルカメラで何枚も撮っていたが、撮れる写真にはどうしても限界があって、その限界に耐えきれず、ビックカメラに足を運んだ。
 複数のメーカーを比較して触って、考え、悩み、写真を撮っている先輩にも相談のうえ、三度ほど通って、SONYのミラーレス一眼に決めた。


 撮り始めて、そのポテンシャルに驚く。そして、写真を撮ることが光と向き合う時間であることを強く実感する。差し込む角度とその量と、適切な瞬間の見極め方を試行錯誤して、シャッターを切るその一瞬一瞬が楽しい。


 撮った写真は確実に、自分の次に書く小説に生きるだろうと思っている。欲しいと思った景色を手元に残し、言葉にするために、うってつけの武器を手に入れたような気持ちでいる。
 物事を見る目に、写真という視点が加わった。それだけで違って見えてくる世界に対して、Twitterで「新しい時間の始まり」と書いた。


 まずはよく知っている景色から、あちこち回ろうと思っている。見ているようで見えなかったものを再発見する可能性に、カメラを手にしたい気持ちが膨らみ続ける。
 何かに没頭することは、つくづく本当に楽しい。