最高峰を見据えるように

 あと一週間で、三年目を迎える。あまりにも早く過ぎた二年間なのに、刻まれた記憶は何もかも色濃く鮮やかな映像として残り、形のないアルバムのようなものが、手元に確かな重みをもって存在しているのを実感する。


 三年目は、何もかもが変わるだろう。
 お世話になった職場を、出ることになった。そして、新たな職場とかけもちで、会社の大切な数字を握る場所を担う重責を、与えていただいた。言葉について今自分の語りうるすべてを出し尽くしても足りない、さらなる高みに、のぼり詰めていく一年にしなければならない。
 求められているのは、紛れもない、プロとしての自覚と知識と指導力、そして、それを悠然と構えて表現するための、人間的な成長である。自分が教えさえすれば、何も問題はない。そう断言できるぐらいの自負を、初めは演じながらも早い段階で本物にしていく必要がある。


 期待をしてもらえていて、必要とされていて、身の引き締まる思いではあるけれど、それに応えるために自己を研鑽し続けるだけでは足りない。あくまで考えるべきは、受け持つ生徒が目標に辿り着くために、自分にできる最善のことが何か、突き詰めていくことだろう。
 なりたい自分を思い描くのではなく、彼らが未来を思い描くために、絵筆や絵の具やその彩り方を、一緒に考えていく姿勢が、何よりも大切なことだと思う。


 そして、成し遂げるために傷つくことを厭わない覚悟もまた、不可欠なものにはちがいない。全力は前提に過ぎず、その向こうにある景色を強く想像しながら、確かな一歩を刻み続けていきたい。来年の今頃辿り着いた場所に、どれほど美しい眺望が待っているのだろう。考えただけで、楽しみで仕方がない。


 自分の言葉で誰かに前向きな影響を与えることができたら。言葉を紡ぎ続けてきた自分にとっての原点である思いを、確かな形にできる幸せが、目の前にある。期待と自信と自負をもって、できるかぎりのことを尽くしていくのみである。


 山頂は、雲に隠れて見えない。けれど目的地は、あの分厚い雲の向こう側。重い荷物を抱え、踏み出す一歩に、魂を込めよう。出発まで、あと少し。