河口

 海に降る雨が止むのを待っていた彼女は、ゆっくりと傘を閉じた。雨が止んだからではない。降り続く言葉の雨をじかに浴びることが、罪を受けとめることであり、受けとめた罪を洗い流すことになると彼女は知っていたからだった。
 雨音のない河口に、灰色の世界が広がる。水平線の向こうは、くすんだ白に満ちている。暗いのか明るいのか、判然としない。
 言葉にされることのなかった思いの雨粒が、冷えた心の奥を穿つようだった。傘の柄をぎゅっと握りしめる。手が震えている。


 ごめんなさい。


 声に出さなかったその言葉が、雨となって海に降り注いだ。