擬態する世界の向こう側

 卒論を書き続けているわけだが、今日は髪を切ってもらいにいこうと昼過ぎに出かけた。高校時代から切ってもらっていて、就活中もいろいろと気持ちの波が激しいなかでお世話になったので、内定報告ができてよかった。安堵する表情を見たとき、心配をかけていたことを実感する。人の生活は時とともに変わりゆくけれど、それでも変わらず迎え入れてくれる場所というのは貴重だと思う。


 そして。今日はその帰りにCDアルバムを買った。今日、この日に買わなければならないアルバムといえば、もう一つしかない。
 Mr.Childrenの2年ぶりのニューアルバム『SENSE』である。
 書く必要がなかったのでこれまで書かなかったけれど、ミスチルは中学時代から好きである。ただ、彼らのような国民的な人気のあるアーティストの場合、CDはレンタル可能なので、新曲は欠かさず聴くものの、わざわざアルバムを買うことはなかった。だからこそあんまりファンを自称するのもどうかと思っていたのも、書かなかった理由の一つかもしれない。そういうわけでとりあえず、僕がアルバムを買うのは、田舎のCDショップではまずレンタルがありえないメタルバンドのアルバムか、レンタルがあっても初回限定特典のDVDが欲しすぎるアーティストの場合のみである。


 しかし、今回のミスチルは違う。
 村上春樹の『1Q84』のごとく、発売直前まで収録曲はおろかアルバムタイトルも明かさず、ファンの渇望感をひたすら煽っていた。それが、直接聴いて純粋にそこにある音楽を味わってほしい思いであろうと一つの広告戦略であろうと、まあ見事に煽られた。
 情報が解禁されないことで、期待感はどんどん膨らんでいくものだが、ジャケットが公開されたとき、そのインパクトに確信を抱いた。広大な海原を背に、その蒼い海面を破って飛び出すシロナガスクジラ(と思われる)の写真。そのスケールにやられた。収録されている曲も、CMのタイアップなどでCD化を待ち望んでいたものが予想通り入っていたので、これで損するわけがない。シングル曲なし、という潔さが何ともかっこいい。
 発売日は明日だと言われているけれど、大体CDというのは前日に入荷されて売られるので、今日あるかもしれないと思って店頭を覘いてみたら、発売日が今日になっていて、すぐさまレジへ持っていったというわけである。
 かれこれもう4周ほど聴いたと思う。その素敵すぎる感想を、月並みな言葉でなく、丁寧に、巧みに表現したい。


 マジ、神!


 以上である。
 ……いや、そんな言葉も口をついて出るぐらい、聴いてテンションが上がる曲の数々ということで。期待以上という言葉がふさわしい。
 メロディはもちろんのこと、深みのある、読んでいるだけで考え抜かれたことがわかる歌詞に、心をつかまれる。1曲1曲の重みが違う、と感じる。全曲に感想を書きたい気持ちもあるけれど、正直言ってまずこの感動を独り占めにしてしばらく味わいたい気持ちが大きかったりする。
 しかもどういうわけかすでに結構な文章量を書いてしまっているので、そろそろ卒論に戻らなければならない。これでもずいぶん焦っている。
 結びに適当な言葉が思い当たらないけれど、今日はそんな感じで。