貴重すぎる偶然は小説のように

 久しぶりに連絡した親友に、いつ会おうかと訊ねたら、どういうわけか彼の大学の学園祭へ一緒に行くことになった。就職先が決まっていなければまず行くことはなかっただろうけれど、一緒に行くかという電話越しの誘いに二つ返事でうなずいたのは、それだけが理由ではない。


 マンガ学科に通う彼の友人に一度会ってみたいと以前から思っていたのだが、なかなかお互いに時間の都合がつかなかった。それがほとんど偶然、就職先が決まって間もない今、唐突に実現することになったのである。
 実は会う前の段階から、そのひとたちのマンガはいくつか読ませてもらっていたため、なんとなく、作者に会うよろこびに近いものもあったりする。 


 うまく打ち解けられるかと若干心配はしていたのだけれど、学園祭のにぎやかさと、外から来たひとを歓迎する雰囲気のなかではぎこちなさもすぐに消えた。
 正直に言えば、さらっと挨拶をしてひと通り店を回ったらすぐに帰ろうかと最初は思っていたのだけれど、その場にいたひとたちの間にあった雰囲気がゆるくて温かかったおかげで、ずいぶん居心地がよくなって、気がつけば終わりまで居座っていた。


 しっかり溶け込めた自信は全然ないけれど、マンガを描くというクリエイティブなことを続けているひとたちと一度に関われることが本当に貴重で、表現方法は違うと言えども小説を書いて何かを表現しようと考えている身として、話していてすごく面白かった。
 で、どういうわけなのか、不思議と時間がゆったり流れている感覚がずっとあって、その理由を考え続けていたのだが、話している途中にふと思い当たった。
 それは、就職活動に無縁な4回生がここに集まっているからではないか、と。
 思えば自分の大学でも、そして企業の説明会でも、そこにはつねに切羽詰った空気が流れていて、ピリピリとした緊張感に包まれている。長い間、そういう場所に何度となく足を運んでいたせいで、学園祭のようなにぎやかなところ、同時に就職活動から遠く離れたところに身を置くことの落差にびっくりしたのだと思う。
 思わず口にしたら笑いながらうなずかれたけれど、就職活動をすることなく、マンガを描いて自分の腕を上げることに人生を賭ける姿勢と覚悟(あるいは諦め?)には、やっぱり尊敬する。


 就職は決まったけれど、自分の好きなことを貫いて生きていきたい気持ちは少しも失っていないどころか、むしろ日に日に大きくなっていくばかりである。有名な少年週刊誌に彼らの作品が掲載されることを楽しみにしようと思いつつ、自分もまた、ものを書くことを続けていこうと気持ちを強くした一日だった。


 と、いうわけで、素直に思ったことを文章にして、お礼というかたちにしようかと思います。ぜひまた近いうちに会えれば。