書くこと、読んでもらうこと

 考えてみれば、これまでずいぶんたくさんの人に自分の書いたものを読んでもらってきたなあと思う。
 新しいものが書けたらとにかく誰かに読んでもらいたくて、仲の良い人にかぎらず、会って間もない人、自分が小説を書いていることを明かす機会があった人にも、原稿を手渡しして読んでもらってきた。ネット上で公開したらどうか、と友人から勧められたことはあったけれど、どこかそれは違うと思って、徹底して手渡しにこだわり続けてきた。そんな姿勢を貫いているうちに、気付けばもう、50人くらいの人に読んでもらうことができている。
 つまりそれは、50人もの人に直接自分で小説を薦めて、直接自分の手で渡して読んでもらったことを意味する。
 50人みんなに満足してもらえたとは全然思わないけれど、改めてその数字について考えてみたら、結構すごいことなんじゃないかと思ってしまった。
 そりゃもちろん、「売り上げ50部」みたいな言い方をしてしまったらまったく大したことはない数字だと思う。実際に本の形になって、千円ぐらいの価値を付与された場合にどうなるか、一つの商品としての価値を持ちうるのか。
 正直なところ、そんなことは別にどうでもいいと思う。これから先、まだまだ多くの人に出会って、50人という数字が60人、70人と少しずつ増えていって、そのうち100人に達する日がくるかもしれない。
 作家になって、自分の書いた小説がちゃんとした本の形をして書店に並び、それが多くの人の手に渡ることは、確かに夢ではある。
 けれど、人生をかけて少しずつ書いてきたもので、自分が関わり合った人たち100人を直接幸せにできたら、それはそれですごく素敵なことなんじゃないかと思う。
 目立つ広告や綺麗な表紙を利用して、立派な出版物として売れた1万部より、直接渡して読んでもらって、よろこんでもらえた100部のほうが、きっとうれしい。
 何度も言うけれど、作家になることが夢なのは揺るがない。けれど、身近な100人すら幸せにできない小説しか書けないなら、作家には到底なれない気もする。


 理想論めいたことをずいぶん語ってみたけれど、デビューしようがしまいが、一生小説を書き続ける姿勢は変わらないと思うし、変えるつもりもありません。
 だから、これまで読んでくれている人も、これから読んでくれる人も、僕の小説をどうかよろしくお願いします(笑)




 ……これ、自己PRに使えんかなー。