辺境エクスプレス

 就職活動を続けているうちに、路線図を見るのが好きになったことに気付く。知らぬ間に大阪市営地下鉄はほぼ全線制覇していて、路線図を見ながら、ここも行った、こっちにも行ったとその場所の記憶が甦り、各地の位置関係を考え始めてしまう。意外と近かったのだと理解したり、ずいぶん遠くまで行ったのだと驚いたりと、後になってわかる新鮮さがおもしろいのである。
 今日は阿部野橋から近鉄南大阪線に乗った。日頃通学で近鉄電車は乗り慣れているのだけれど、見慣れたその車両が、初めて行く場所の景色の中を走っているところに、安心感にも似たような何かを感じたような気がする。見知らぬものの中に、見知ったものが溶け込んでいる様子は、安らぎと違和感との微妙な揺らぎの中へとこちらの感覚をいざなうのである。


 とは言うものの、そんな感慨にふける時間は実際なかった。乗り換え4回で所要時間が1時間と、せわしない移動のあと、目的地の駅を降りるとすぐに雨が降り出した。会社までの徒歩10分の間に雨脚はみるみる強くなり、イヤホンで音楽を聴いていても、傘に叩きつけられる雨粒の音が上回る。そんな大雨の中、念のためにととりあえず持ってきた折りたたみ傘ではとても太刀打ちできず、スーツの左半身が大変なことになってしまった。撥水加工が不十分であれば、会社の入り口で引き返すことも考えたかもしれない。


 少人数だった説明会は駆け足で進められ、そのままグループディスカッションが始まった。しかし、それも10分弱話し合うだけで、結論をまとめて発表することもなく、横で人事の方が聴いているのみ。そのあと、こちらから2つほど質問をさせていただきます、と言われ、気付けば一次面接がスタートしていた。難しくはないが、月並みな質問ではなく、その企業ならではの質問で、通常の面接でよく聞かれるような質問以上に、こたえ方に幅が出る問いだった。そのため、受かっても落ちても、理由はよくわからないだろうと思う。結局はその企業に合うか合わないかに尽きるのだと、ここでも実感した。
 とりあえず、特に熱烈に行きたいとは思わなかったので、結果はどっちでもいいと思っている。これでしばらくESを書かずに、5社ほどある選考中の企業の面接なり筆記試験なりにじっくり備えられるはずである。


 そういうわけで、懸念していた予定を消化し終え、目先の予定は木曜の面接。
 楽しもうと思う、と書いていた頃の心境とは違い、楽しみだという思いが勝っているのは、多少なりとも成長できたしるしなのかもしれない。電車と同じように、目指すところははっきりしている。ただ、息継ぎするように田舎を走る各駅停車とは違って、気分はほとんど特急である。終着駅に無事に辿り着いて、喜ばしい結果がここに書ければと、心の底から思う。