あるべき姿、なすべきこと

 ――離れていて、困ることは、会えないことよりも、会っていないっていう状態に、実はすぐに慣れてしまって、それが普通になってしまうことなんじゃないかと、思います。


 柴崎友香・田雜芳一『いつか、僕らの途中で』(ポプラ社


 以前京都の某巨大書店で見つけて、そのうち買おうと思っていたら書店から消えてしまい、それ以来入荷されず、完全に買い逃したと思ったので、某南米的ショッピングサイトAに発注をかけて取り寄せた一冊です。


 京都に住み、大学院の修士論文に追われる「私」と、山梨で新任の教師として高校生を教える「僕」の往復書簡の物語です。「私」の文章を柴崎さんが、「僕」の文章とイラストを田雜さんが、それぞれ書いています。
 大人向けの絵本という感じでしょうか。


 四季がそれぞれ章立てされていて、一年間のやりとりが物語になっています。
 大きな起伏があるわけでもなく、二人の間にある関係が様変わりすることもありません。書かれている、あるいは描かれているのは、季節に合わせて緩やかに変わっていく心情と、手紙の背景に見える何気ない二人の生活です。
 特別なものは何もないけれど、そこにささやかで確かな幸せを見て取れるのは、「当たり前」のありがたみを浮き彫りにする感性を、柴崎さんが持っているからで、世界をありのまま、肯定的に受け入れる心を持って言葉を使っているからだと思います。
 こういう感性を持っている人となら、どこへ一緒に行っても多分居心地がいいんだろうなと思ったり。


 それはそうと、小説を書き続けてきて、哲学をやっていて、共通している思いというのが、「当たり前」に対する疑問と感動の追究(求)ではないかと最近考えています。
 柴崎友香川上弘美堀江敏幸、この3人の作家さんを大好きでいる理由も多分ここにあって、ひどく当たり前にある現実的な世界を、肯定したり、緩やかに脱構築したり、細部の拡大を試みたりする小説が、やっぱり読みたいし書きたい。


 いろんな企業を見比べながら自分のことを見つめなおすと、そんな当たり前を支えたり、新しい当たり前を生み出していくものづくりができるような企業なら、理念的には共通しているはずなので、働きがいを見い出せるんじゃないかと思ってます。




 さて、模擬面接を受けてきたわけですが、前回よりはある程度ましになったかなと思います。
 で、面接後にキャリアオフィスにフィードバックを兼ねた相談に行ったんですけど、おそろしいことにそっちのほうが追い詰められました。
 志望動機の甘さと志望する企業の少なさの改善に向けてどうしようかという話をしてみたら、見事に圧迫されるという事態になりました。あれを圧迫と呼ぶべきなのかどうなのかはわかりませんが、これまで考えたことのない潜在意識に迫ろうとする質問を淡々と繰り出され、思わず口ごもってしまいました。
 口ごもったところで、「今わざとどういう考えを持ってるか知ろうと思って意地悪な質問してみたんやけど」と優しく変貌され、非常に的確なアドバイスをいただきました。いや、甘く見てはいけませんね、キャリアオフィス。模擬圧迫面談のサービスまで無料とは。
 でも、初対面の人間の内面深くに短時間で迫ろうとするなら、表層的な考えを入り口にして根本まで辿るのが一番の近道であって、むしろそれ以外に方法は考えられないような気もします。向こうは圧迫しているつもりなんてなくて、単純に内面を深く知りたいだけだということを頭に入れておいて、気持ちにある程度の余裕を持って臨めるようにすべきなんでしょうね。
 いやー、勉強になりました。


 ところで、今週忙しかったわりに、なぜか来週はあまり予定が詰まってません。予定が詰まっていないことに多少の焦りを感じてしまうというのは、世に言う就活病というやつなんでしょうか。