ささやかな永遠

 小説や随筆めいた日記はこれまで書いてきたけれど、詩、短歌、俳句はなかなか書けそうにないので、あまりしっかりと誰かの作品を読み込むということもしてこなかった。
 ただ、詩歌の単元の授業をしていて、言葉の持つ力の最も本質的なところに触れられるきっかけになるであろうこの分野について、もう少し何か理解しておくべきではないかと思った。
 だから、というわけではないのだが、友人を通して大学を卒業するより前に知ることになった、ある歌人の作品集を手に取った。


『えーえんとくちから 笹井宏之作品集』(PARCO出版


 名久井直子さんの装丁が相乗効果を生んでいるのは間違いないが、ひとたび本を開けば、短歌という言葉のイメージが覆りかねないほど、すさまじい影響力を秘めた作品集だと思う。短い言葉は、その短さゆえに胸を打ち、鋭い切れ味を持って心に深々と突き刺さり、そして射抜く。傷口から流れ出る血を、痛みをともなわないまま、美しいものでも眺めるかのように、ぼんやりと見ていることしかできない。
 やがて世界は軽やかにひっくり返る。


 ――「はなびら」と点字をなぞる ああ、これは桜の可能性が大きい


 ――食パンの耳をまんべんなくかじる 祈りとはそういうものだろう


 ――人類がティッシュの箱をおりたたむ そこには愛がありましたとさ


 なんでもないものの中に小さな点のようなきらめきを見つけて、想像力でもってそれらをつないで、星座がつくられる。そんな言葉の跳躍が美しい。永遠があるとしたらおそらく、そのようにして紡がれた言葉の余白みたいなものではなかろうかと感じる。


 授業で扱うのは難しいと思うけれど、単純にひとに薦めたい歌集である。筆舌に尽くせないほどの何かが込み上げてくるだろうと思う。言葉にはできないその思いが、何より心の潤いになる。
 最後に今の自分にとってどうしようもなく響いた作品を引用したい。


 ――生きてゆく 返しきれないたくさんの恩をかばんにつめて きちんと