危険すぎる東北への旅路

 東京発、盛岡行きの新幹線に、殺し屋たちが乗り合わせる。それぞれの思惑が錯綜するなか、列車は北へ北へと疾走する。


 伊坂幸太郎[著] 『マリアビートル』(角川書店


グラスホッパー』(角川文庫)の続編という位置付けとして書かれた、殺し屋たちの物語である。『グラスホッパー』を読まずとも楽しめるが、前作での登場人物が物語の鍵を握っていないわけでもないので、順序良く読むことをおすすめしたい。


 この『マリアビートル』のメインとなる登場人物を挙げてみる。
 まずは元殺し屋で現在は警備員として働くアルコール依存症の木村雄一。彼には入院している6歳の息子、渉がいる。
 そして、自分の力で他人を絶望させることに恍惚を覚える残忍かつ狡猾な中学生、王子慧。
 冷静沈着な蜜柑と機関車トーマスをこよなく愛する大雑把な檸檬という、二人組の殺し屋。
 行く先々で必ず不運に見舞われるが、追い詰められたときの頭の回転の早さは並外れた殺し屋、黒縁眼鏡の男、七尾。


 何の因果か彼らはそれぞれの目的を持って同時刻の新幹線に乗り合わせる。木村は自分の息子、渉を殺そうとした王子を銃殺するため。王子は自分を殺そうとして新幹線に乗り込んでくる木村を絶望させるため。蜜柑と檸檬は、殺し屋の業界では最も恐れられた男、峰岸の依頼を受け、彼の息子と黒いトランクを護送するため。七尾はそのトランクを奪うため。
 それぞれが自分の目的を果たそうとすれば、言うまでもなく、予定は何もかも狂い始める。


 息もつかせない展開のなかに、思わず笑ってしまうユーモアがのぞき、時折伊坂さん自身の主張らしき考え方も見える。
 伊坂さんは相変わらず、少し誇張して言えば、読んでいてはらわたが煮えくり返りそうになるような人間を書くのが巧い。こんな奴と絶対に関わりたくないと思わせるような登場人物が必ずいる。
 しかし、だからこそ、そんな人間によって貶められた者への救いとなるような展開が効いてくる。立場が覆ったり、状況が大きく裏返ったりするための梃子のつくり方の秀逸さに、筆舌に尽くしがたい魅力を感じるのである。降りるタイミングを逃して走り続ける新幹線のように、読み始めてしまえば止まらない。


 誰がどこでどうなるのかということは語れないため、ここで書けるのはそのぐらいかと思う。