Redefine

 川上未映子[著]『ヘヴン』(講談社


 友人が読みたがっていたので立ち読みしてみたら、その場で自分も気に入ってしまい、そのうち読むわと言って、結果的にその友人より早く昨晩に読み終えた一冊です。ちなみに、読み終わってしまう前に、以前テレビで放送されたこの作品の執筆風景もちゃんと観ました。
 ぶっちゃけてしまうと、昨日の日記に楽しいことを書けなかったのは、まさにこれを読んでいる最中だったからです。ご了承ください(何)


 帯に「善悪の根源を問う」と書かれているとおり、クラスの男子から苛められている主人公「僕」とクラスの女子から苛められている女の子コジマとの交流を通して、苛める側の二ノ宮たちに立ち向かう物語です。立ち向かうというのは少し語弊があるかもしれず、実際、善と悪の止揚を試みている作品ではないかと思います。
 苛められる側の論理と苛める側の論理が交錯し、どちらが正しいかという問題を超克したところへと物語は展開します。被害者が絶対的に善で、加害者が絶対的な悪か。そもそも善悪とは何であって、誰がそれを決めているのか。小説として形をとどめながら、随所に見られる根源的な問いと、視線を事象の細部に引きつける描写が、読者を最後まで離さない作品です。


 哲学を学び始める人たちが読むといいんじゃないかと思う反面、哲学を敬遠する人たちにこそ読ませたい小説でもある。何が善で何が悪なのかわからなくなる瞬間がやってくるけれど、そんなもの明白にわかるわけがないのだから、世間にまかり通っている当たり前の上で生きている人間は、一度この作品の前にひれ伏すべきなんじゃないかと思う。正義が必ず勝ってしまう物語がどうしようもなく陳腐に見えてくるから楽しい。


 で、関係ないことかもしれないけれど、著者の川上さんがニーチェを学んでいたことを考えながら読んでいると、コジマという字面からどうしてもヴァーグナーの奥さんが思い浮かんでしまいました。まさか意図しているわけではないと思うんですが(笑)


 この小説をめぐって、本当に様々なことが書けるとは思うんですが、あいにく明日もテストがあったりレポートがあと1本あったりするので、このぐらいにしておきます。




 で、テストのことを少し。
 明日は現代美術論という授業の試験です。この授業を受けていなかったら間違いなくマレーヴィチとかジャクソン・ポロックとかバーネット・ニューマンの面白さはわからなかっただろうなと思います。あとロスコとかステラとか。
 でもマーク・タンジーが忘れられません。